鳥の待 とりのまち


 

その鴉 カラス はひとり
二本の足で大地にしがみついて
 
夕日に赤く染まり
片手を上げ
かの物を指し示す
 
首を少しだけ傾け
こちらを見て
 
そこには
先程までの驟雨 しゅうう
アスファルトの隅で休んでいた
 
そこには
赤く染まる夕日の影がいた
 
そこに
猫の抜け殻 から がひとり路肩で空を睨 にら んでいた
 
 
虚空 こくう を指す銀のヒゲ
まばた きを忘れた目は丸く
在らぬ方を指した手の先には
水たまりに広がる油の虹
開いた口から垂れた舌は
赤い糸で大地と結ばれ
曲がった尾はもはや立つ事もなく
 
 
新たな居場所を見つけたのか
かの猫は旅立ったようだ
動かぬ時を連れにして
 
新たな居場所を見つけたのか
かの猫は旅立ったようだ
殻を置き去りにして
 
新たな居場所を見つけたのか
動かぬ時を連れにして
殻を置き去りにして
 
 
猫の抜け殻が路肩でひとり空を睨んでいる
 
 
やがて
その鴉は
歩み寄る
 
押し黙ったまま
首を傾けながら
 
その鴉が
歩み寄る
 
そうか
おまえが真っ先に駆けつけたのか
 
残念だがおまえの友は
もう おまえの挑発に乗らないそうだ
 
残念だがおまえの友は
もう おまえの冗談には付き合えんそうだ
 
残念だがおまえの友は
もう おまえを狩れないそうだ
 
残念だな 鴉よ
 
追々 おいおい 仲間も来るのだろう
後は 任せた
しっかり 祭ってやれよ
 
 
ああ そうだ鴉よ
鈴は喰うなよ
腹を壊すぞ
 

 
 
 
 
 
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