ウォーレスの海の家

− 1000年代の終わりに −


 

 
「確かここは、店じまいしたんじゃなかったかいの。1999年の8月26日に」
「なんせ、あんたしか来なかったからな」
「じゃあ、またなぜ始めたんじゃ」
「1000年代の締め括りの日を過ごすのは、ここが一番だと思ったんだよ。
そのついでに店を開けてりゃ、間違ってだれか入って来るんじゃないかと思ってな」
「するとワシはまんまと引っかかったてわけじゃな」
「誰にも言わず秘かに再開したつもりだったんだけどな。
それにしても、また何であんたが・・・・・・」
「まぁ、誰もいないリゾートビーチで人知れず静かに締め括るのも、いいかもしれんの」
「そいつぁ、嫌味かい」
 
 
「なんせ、今年のワシは大活躍だったからの。
もしここにアカデミー賞があったら、ワシは主演男優賞間違いなしじゃな」
「相も変わらずあんたはあっちこっち引っかき回してたからな。
『勤勉なバカ』が傍迷惑程度ですむなら、『怠惰な大バカ』は最終兵器に匹敵するんじゃないかな」
「バカをバカにしちゃいかんぞ」
「そりゃそうだな。バカに例えたことを、バカ共に謝罪しなくっちゃな」
「ところで、何をバカに例えたんじゃ」
 
 
「主演男優賞がじいさんなら。こっちは助演賞ぐらいもらえるかな」
「おあいにく様、残念ながら助演賞もワシがもらうことになっておるんじゃよ」
「何で」
「あんたは知らんかもしれんが、ワシは『垂拱譚』の方でも大活躍したのさ」
「またよけいな所にまで首を突っ込んだんだな。でも『垂拱譚』なんかに出ていたっけ」
「今からでも遅くないぞ『いつもどこかは・・・・・・』の名演技見に行ってきたらどうじゃ」
「そいつは何度か見たが、まさかあんた師匠役をやったとか言い出すんじゃないよな」
「あんなケチな役と一緒にせんでくれ、ワシがやったのは夕日の役じゃ。
どうだ、ピッタリだと思わんか」
「ああそうだな、まさに沈まんとするあたりがな。いや、ちっとも沈もうとしないところがか」
 
 
「なぁ、そろそろじゃないか」
「なにがじゃね」
「1000年代に別れを告げる時がだよ」
「なに、心配はいらんて。ワシ等が見守って無くとも、ヤツは勝手に歩いて行くさ。
まさにマイペースの権化じゃな」
「時をマイペース呼ばわりするのはあんたぐらいだな」
「これもワシの、類い希な感性の為せる技じゃよ」
「感性じゃなくて、陥穽かんせいじゃないのかね」
 
 
「何はともあれ、ここいらで一度くらい1000年代とやらに、感謝と別れの乾杯を捧げるというのも
妙案かもしれんのぅ」
「一度でいいから、あんたが素直におごってくれと言うのを聞いてみたいもんだ」
 
 
「よし、とりあえず1000年代に感謝と別れの乾杯だ」
「『時』はいつでもワシのことを置いて行きよる。
たまには、並んで歩くのも一興だと思うんじゃがの。そう思わんかね」
「では、共に戦った仲間に感謝と別れをこめて乾杯」
「おい、ちょっと待っとくれ。ワシのグラス乾杯する前に空っぽになっちまったぞ。
穴でも空いとるんじゃないのかな」
「Dead Soldier!!」
 
 
 
31,Dec,1999


 
 
 

ウォーレスの酒場 営業中ウォーレスの海の家
『 ごさどん.ねっと 』

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