「おっ、おい。どうしたんだ。大丈夫かじいさん」 「 ・・・ 」 「えっ、なんだって。聞こえないぞ・・・」 「 ・・・ 」 「顔色がかなり悪いようだが」 「とっ、とりあえず水を・・・」 「水か、わかった。待ってろ」 「ううっ、それとビールも・・・。早く」 「ああっ、ビールもだと・・・」 「いやぁ、すまなかったの。どうやら落ち着いたみたいじゃて」 「もういいのか、あんまりおどかさないでくれよ」 「すまんが、もう一杯」 「一体どうしたんだ。ほら」 「おいおい、ワシが頼んだのは水じゃなくて・・・」 「ついさっきまで、死にそうだった人間にビールはやれんよ」 「わしのこたぁ〜、わしが一番心得とる。早よせんか」 「とにかく、何があったかくらい、聞かないとな」 「ここ二三日涼しくなったと思ってたら。この暑さじゃ」 「毎年、秋の始まりはこんなもんさ」 「たまには、おてんとさんに顔を見せとかんと。 忘れられるとやっかいじゃでな」 「珍しく、殊勝な考えを・・・」 「そうしたらじゃ、暑さに当たって・・・」 「見事返り討ちにあったってことか」 「突然、足がガクガクして、体中が暑くなり、頭はクラクラ、胃はムカムカ。 そのうち、目の前が暗くなってきての」 「年寄りにはこの陽射しはキツイからな」 「偶然、この前を通りかかったからの、 取り敢えず緊急避難をしたワケじゃて」 「偶然ねぇ・・・」 「いずれにせよ、今のわしは、強度の脱水症状じゃ。だから、ビールを」 「わかってるのか、じいさん。 脱水状態にアルコ−ルなんて自殺行為だぞ」 「おまえさん、客の頼みを断る気かの」 「だから、金を払って初めて客と呼ばれるんだよ」 「なんと、ここじゃ、モノも出さずに金を取る・・・」 「おいっ、じいさん、大丈夫か・・・」 「うっ、酒臭い」 「・・・おお、どうしたことじゃ。おまえさんが早く出すモン出んから、 熱中症の、脱水状態がぶり返したようじゃて・・・」 「あぁあっ、はいはいっ。 じいさんの場合はとっとと帰って、寝て起きれば、すぐに治るよ」 「なんだと、さっきまでとは打って変わって、この態度か」 「良い事教えてやるよ。じいさんの場合は熱中症の、 脱水状態じゃなくてだな、単なる二日酔いだよ」 「なんじゃとぉ。じゃぁ、このクラクラ、ズキズキ、ムカムカは一体」 「だからさ、それが典型的な二日酔いの症状だって」 「しかし・・・、思い当たるフシが・・・。ないぞ」 「おい、おい。記憶なくすまで飲んだんかい」 「確か昨日は。夜空があまりにもキレイじゃった、もんでなぁ〜」 「まぁ、この時期になると夜は幾分か涼しくなるしな」 「で、チト散歩なぞをと・・・」 「う〜む。そしたら月を見つけたんじゃよ。 やっこさん半分に欠けておったわい」 「そう言えば、今度の満月は、中秋の名月か・・・」 「そうじゃ、そうじゃ。それでじゃ、 お月見の予行演習をしておくのも良かろうと」 「なんか、いつものパターンになってきた気がするよ」 「ああ、思い出してきたぞ。で、盛り上がってきた所でじゃ」 「盛り上がるって、ひとりだったんだろ」 「何を言うか。ちゃんと、蚊が相手してくれてたぞ」 「ううっ、それで・・・」 「なんと、これからと言う時にじゃ。おてんとさんが、顔出しよっての・・・」 「それで、しかたなく涼を求め、ココへ・・・」 「なるほどね、二日酔いと言うよりは、単なる飲み過ぎか・・・」 「でじゃ、ココへ来る途中炎天下を歩いていたら、 日射病に、熱中症に・・・」 「あくまでも、そう言い張るつもりかい」 「もし、おまえさんが迎え酒のひとつも、奢ってくれるというのならばじゃ、 飲み過ぎと言う事にしてやっても良いぞ」 「はいよっ」 「おおっ、カクテルか、気前が良いのぉ」 「お望みなら、飾りでも付けようか」 「いらん、いらん。液体だけで十分じゃて・・・」 「ぶふぉっ、なんじゃこりゃ〜」 「だから、飲み過ぎの薬だって」 「だいたい、まだ日の高いうちからココに来るなんて、 非常識とは思わないのかい」 「ぬおっ。開いてたから、来たんじゃろうが」 「今年は、久しぶりに月見でもするか」 「おおっ、それは良いのぉ。じゃが、蚊だけは呼ばんといてくれ」 「蚊・・・」 「ヤツらと来たら、耳元で囁くばかりで、 こっちの話をちっとも聞かんで・・・」 「やっぱり、月見はやめようかな」 「おまけに、ヤツらの言葉と来たら・・・。 わしにはサッパリわからんかったぞ」 「それにしても、なんでこんな早くに店開けちゃったんだろう」 「ああんっ、何か言ったか。 でも、考えてみればヤツら、おまえさんと気が合いそうじゃの」 「・・・」 「でも、あれほど喋り続けると言う事は、 さぞかし言いたい事があったんじゃろうて」 「選挙演説だって、ああ淀みなくはいかんぞ」 「おまけに、原稿を見てた気配もないしの」 「ただ、あの声の大きさじゃ、よほどしっかりしたP.A.を使わんとな」 「ところで、そろそろ、ビールの時間じゃ・・・」 「おい、ウォーレス。はて、ヤッコさんどこへ消えたんじゃ・・・」 「まったく、いつも急に消えて・・・。 「ントに、忙しないヤツじゃの・・・。 「しかたない、戻ってくるまで、店番でもしといてやるか・・・」 「まっ、その前に、ちょいと喉を潤してと・・・」 31,Aug,2002
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