『 遠い谺 -とおいこだま- 』


 
左足右足で一歩
右足左足でまた一歩
一歩、また一歩
一それは自分
一それは獲物
一それは敵
仲間はもういない
 
 
左足右足で一歩
右足左足でまた一歩
一歩、また一歩
目を凝らす
聞き耳を立てる
臭いを探る
 
 
何も無い
自分と同じ
そう、同じ
同じことの繰り返し
いつまで続く
 
 
一それは自分
一それは、それは始まり
すべての根元
この世の始まり
世界の中心
そして、また
すべての終わり
一それはすべて
 
一で始まり
一で終わる
一に続くモノは
一に続くモノは
 
 
ふと、後ろを伺う
冷え切った道には自分の足跡
遠目でもはっきりわかる恥の跡
ここらで少し休もうか
そう、思い出した
一の次は二
一と一で二
 
 
自分と獲物で二
二が一になれば
腹は満ちる
二が二のままならば
身が朽ちる
いずれにしても苦しみは続く
 
 
自分と敵で二
二が二のままならば事も無し
二が一になれば
二が一になれば
楽になれるのか
例え、それがどちらであろうとも
 
 
そうだ、二の次は沢山
こんな事を思い出すにも苦労する
沢山、それは群
仲間の群
獲物の群
仲間の群で獲物の群をめがけ一気に
今となっては遠い夢
獲物は腹へ、仲間は土に
残っているのは自分だけ
 
 
このところ動く物を見ていない
暖かい物を見ていない
せめてもう一度顔を埋めてみたい
止めておこう、むなしくなるだけだ
 
 
自分と獲物で二
二が一になれば
腹は満ちる
二が二のままならば
身が朽ちる
いずれにしても苦しみは続く
 
 
自分と敵で二
二が二のままならば事も無し
二が一になれば
二が一になれば
楽になれるのか
例え、それがどちらであろうとも
 
 
どちらであろうとも
どちらであろうとも
どちらであろうとも
どちらであろうとも
本当にそうなのか
もし自分が一ではなくて二であるならば
二でさえもなく、沢山ならば
 
ふぅ
いずれにしても、同じこと
今となっては叶わぬ夢
いや、夢にもならぬ単なる望み
 
 
沢山の中の二であるならば
それは、いつのまにか過ぎていった
遠いあの日
沢山の中の一であるならば
それは、いつのまにか夢を見ていた
過ぎ去った日々
 
 
いずれにしても、同じこと
叫びはどこにも届かない
今となっては叶わぬ夢
望みを、願いを伝えるすべもない
いや、夢にもならぬ単なる呟き
 
 
だいぶ暗くなってきた
さて、どうしよう
このままここで眠るか
それとも
それとも夜動く獲物を探すか
 
 
上から落ちてきた冷たいモノが
辺りをすっかり包み込んでいる
いつしか自分もそれに同化している
だが、その冷たさも
腹の冷たさにはかなわない
その寒さも
 
 
行くか
どこへ
どこへでも
いいのか
なにが
なんでもない
 
 
ふぅ、今は思っても身体が動かない
気持ちだけが先に行く
気持ちを置いて駆けめぐっていた
それもまた夢だったのか
行くぞ
自分をけしかけても
足は動かない
 
それにしても、明るい
辺り一面の冷たいモノのせいか
これは良い徴か
それは先を信じるモノの問いだ
 
 
大事なことを忘れていた
下ばかりを見つめていたせいだ
そうだ、上にアレが来ている
どこだ、どこにいる
応えてくれ
 
 
いた
姿を見せたばかりのようだ
前よりも痩せている
アレが痩せると自分も痩せる
アレが太っても自分は痩せる
そんなもんさ
 
 
何故だろう
アレを見るたび心が揺れる
どうしてなのか
アレを見るたび心が裂ける
アレを見るたび何故か安らぐ
 
 
目指しても
辿り着けないことはわかっている
逃げようとしても
どこまでも追いかけてくる
そのくせ何も応えてくれない
 
 
物言わぬ仲間か
いや違う
仲間なら共に狩る
では敵か
いや、獲物でさえもない
アレはアレ
 
 
そうか、忘れていた
一の次は二
二の次は沢山
 
 
でも違う
二と沢山の間に
アレがある
そのためにも
二と沢山の間に
アレの居場所を作くらい作ってやろう
自分の場所がない今こそ
 
 
一の次は二
二の次はアレ
アレの次が沢山
そう、それでいい
 
 
今日は、良い夢を見られそうだ
できれば、たっぷりの肉の夢
いや、今日は、アレの夢にしよう
そう、それがいい
 
 
一の次は二
二の次はアレ
アレの次が沢山
 
 



 


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垂拱譚 −すいきょうたん−
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