笑猫譚 − しょうびょうたん −


 

それにしても
まっこと毎度の事ながら
このただただ暑い夏の最中に
しかも
お日様ガンガンのもろ陽射しを浴びながら
焼け付くコンクリートに仰向けになって
堂と横たわる猫の
しかも
しかも
薄笑いを浮かべての片手を伸ばし
天を指すその姿を見ると
多分多分の概算で
そんな猫は一夏一匹いるかいないかで
まっ
真顔で仰向け天 あま 指す猫は数多いるけど
 
 
ついその笑顔につられ
示す彼方を望んでは見るものの
その先は青で埋め尽くされた空に
ポツンと浮かぶ雲がひとつあるだけで
しかもその雲ときたら
一瞬膨らんだかと思うと薄く薄く
小さくなる間もなく消え失せて
足元に目を戻せば
件の猫の姿はもはや無く
かわりに腹這い大の字の
見慣れた二三の猫が
そろいもそろって片目だけうっすら開けて
利き手を差し出し空気を相手になにやらと
 
 
まっねぇ〜
もし今日がこんな日でなかったら
もし今日がそんな日だったら
なんとなくその欠けた輪の末席で
見えない時を相手に
ただ混乱するのも一興かと
 
 
でも今は
時折ささやきかける熱風に
一言述べるべく
その居場所を探し求めるに忙しく
ただただ歩いて
またまた歩いて
ふと横目で睨んだ
鏡面仕立ての硝子の壁に
意味なくも訳ありとばかりに
反撃喰らって
かの逃げ水さえ
その場に留まり続けるのを
陽炎さえ揺らめくのを
遠慮してしまう今日の今
 
 
しかも
しかも
しかも
微かに戦 そよ
自然由来の風にさえ
危ういところでぶち切れる心を
すかしてかわしてなだめつけ
ただただ歩いて
またまた歩いて
ふと横目で睨んだその先に
当然現れて然るべきの
幻影はその気配すらなく
しかし
しかし
まさかの
しかしとばかり
その先にはまたもあの猫がただ独り
にこりと笑みを浮かべての
片手を伸ばし
天を指すその姿
 
 
その瞬間
体力気力すべては殺がれ
内なるすべてが空に転じる
そんな予感が
まるで一服の涼風のように
身体に染み入る
そうだ
腰が砕け散る前に
膝が崩れ落ちる前に
目に頭に闇が落ちる前に
冷房の効いた店に逃げ込んで
冷たい飲み物麦酒でも
ふと思いついた妙案に
いつの間にか頭の中は
安息の地への渇望に満ちあふれ
短くも鮮明な影に
まとわりつかれ邪魔されながらも
足は這うように
心は飛ぶように
かの約束の地を求め
 
 
 
気が付けば
太陽と目の間には
黄金色の液体の中で、
光り輝きながら
天へと登り詰める
数多の気泡
ふと今日の様々な光景が頭を過ぎる
そうか
あの猫は
泡の層めがけて駆け上る
この幾筋もの縺 もつ れ絡み合う螺旋を
思い浮かべていたのか
もっと早く気が付いていれば
ほんの気持ちだけ
お裾分けをしてやれたのに

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
gosadon's tweetsCopyright ©2010 gosadon All rights reserved

『 jupiter hollow 』
『 hobo jungle 』『 ごさどん.ねっと 』
Copyright ©2001-2024 gosadon All rights reserved