「まっ、いろいろな説があるが、とりあえずは20世紀も今日で終わりというコトじゃな」 「おいおい、入ってくるなり終わりの話か」 「すると、なんじゃ。来世紀への序章とでも・・・ それじゃ、チト今世紀最後の一日に対して失礼じゃないかの」 「そう言う意味じゃないんだがね」 「いろいろあったな今世紀も」 「いろいろありすぎてな、整理が追いつかん」 「無の山は、どう片付けても無の山さ」 「無の山じゃと。ココも、酒場も、ワシがいる限り無ってコトは無かろうて」 「ウチのコトじゃないよ、あんたのコトさ」 「なんじゃと、ワシが無の山だっていうのか。 なんか最近動くたびに何か崩れていく気がしたが。 ありゃワシじゃなくって、無だったのか。 でもな、無が崩れても何も変わらない気がするがの」 「それにしても、何であんたがウチに巣くうようになっちまったんだ」 「いずれにしてもじゃ、今世紀最後の一日を、 ノスタルジーなんぞに振り回されることなく笑って過ごそうと思ってな」 「フト思ったんだがの。おまえさんココの入り口付近に、 ちっぽけなブラックホールでも隠してるんじゃないか」 「ブラックホールか」 「何処にいてもココに吸い寄せられる気がしての」 「そうかもしれないな、それでウチに来ようとする客は、みんなそこに吸い込まれて、 ウチまで辿り着けないのかもしれないな」 「そいつぁ、考え過ぎってもんさね」 「あんた自体がブラックホールなんじゃないのか」 「ふぉっふぉっ、試しにタダ酒でも吸い込ませてみるか」 「ほらよ」 「おい、どうしたんじゃ、ヤケに気前がイイのう、 コレも世紀末現象ってヤツかの」 「考え方を改めたのさ」 「世紀末にゃぁ、誰もが悔い改めたがるモンさね。 このワシにしてから、危ういところで悔い改めそうになったもんさ」 「タダ酒飲まれてると思うから、頭に来るんだよ。 喜捨だと思えば、善行した気分になるさ」 「するってえと、わしは神さんか」 「あんたを神様なんかにしたら、貧乏神やら疫病神から抗議が来るよ。 それに喜捨は恵まれないヒトにするモンだよ」 「わしは、飲めさえすれば文句は言わんよ」 「お礼も言わないしな」 「おおそうじゃ、悪いコトしたな。礼を言うのを忘れとったの。 では、二人で始めるか」 「二人で始めるって」 「さあ、グラスを持て、まずは1901年あたりから始めるとするか」 「1901年あたりって」 「ほい、それじゃ行くぞ」 「1901年に、感謝とお礼の乾杯じゃ」 「あんた、まさか100年分、100回乾杯繰り返す気じゃ・・・」 「100回乾杯を繰り返す気かじゃと、とんでもない」 「それは、よかった。どうやら気ばっかり急いてね」 「年の瀬でもあるからな仕方ないじゃろ、まっ、それはそれでな。 おまえさん、来世紀を感謝の気持ちを持って迎えるの忘れてるぞ。 「100年プラス100年分じゃ、早く始めんと終わる前に来年が来ちまうぞ」 31,Dec,2000
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