「おい、出かけるのか。客を置き去りにして」 「客だと、どこにいるんだい、あたしにゃあんたしか見えんがね」 「それでよく客商売がつとまるもんじゃて」 「客が来れば瞬く間に変貌するさ」 「猫をかぶるワケじゃな」 「毛布かぶっても仕方あるまい」 「さしずめ黒猫あたりが似合いそうじゃな」 「寄り合いだよ。フレーム版の開設一周年を明日に控えてるんでね」 「おや、今日じゃなかったのか」 「今日は28日だよ」 「どうやらここへ来るの、一日早すぎたみたいじゃの」 「毎日顔出してるくせに」 「んで、ナンカやらかすのか」 「多分、何もしないんじゃないかな。フレ-ム版は需要もないことだしな」 「そいつぁ、残念だな。となると明日はココで過ごすしかないようだな」 「明日もだろ」 「それにしても、一番の功労者であるワシにお呼びがかからないのはどうしてじゃ」 「みんなの配慮さ。今、あんたを人目に曝さない方がいいってね」 「それのどこが配慮なんじゃ」 「あんた、防災無線聞いてないのか」 「防災無線じゃと、毎日夕暮れ時に音痴の曲流すアレか」 「たまに、災害情報も流すんだよ」 「おぉ、そう言えば、何年か前に大きな地震があったとき、 夜中だってのに大きな音でなんか喚いてたな、ワシは地震よりその音で目が覚めちまったっけ」 「ああ、それだよ」 「でも、それが、ワシとなんの関係があるんじゃ」 「ホントに聞いたことないのか」 「ああ、でも、もし災害が襲ってきても、ワシの避難場所はココだからな。 ワザワザ聞く必要もあるまいて。で?」 「こんな具合さ。只今某じいさんが出没しました。ご老人特有の症状に悩まされておりますが、 危害を加えられる恐れがありますので、 アルコール、言葉尻、スキ、ネタなど見せないようにご注意下さい。云々。ってな具合さ」 「おおっ、ワシの知らん間に・・・」 「なに気にすることないさ」 「そんな凶暴な奴が徘徊するようになったのか、この辺も物騒になったな」 「まっ、あんたがココにいれば被害は最小限で済む、ってのが大方の見方さ」 「ははぁ、おまえさん、さり気なく店の安全性を宣伝しておるな」 「何事にも犠牲は付き物さ」 「確かにあんたは犠牲者面してるがの、ワシが居る限り心配することないぞ。 そんな輩がもし来おったら、このワシが諭してやろうぞ」 「おっと、もうこんな時間だ。わるいな勝手にやっててくれ」 「連れない奴じゃな。もし道中でそいつに出くわしたら、被ってるネコ取ってみせるといいぞ、 突然あんたの頭見りゃ、みんな目が眩むじゃろうからな。その隙に逃げるんじゃぞ」 「でも、道中じゃ絶対遭わないよ。そんな気がするのさ」 「その自信が危機を招くもんじゃぞ」 「ありがとよ。今日はヤケにやさしいな」 「年とるとな、あまねく命に対してやさしくなるもんじゃて」 「店主が居ないからって、店飲み尽くすなよ。じゃあな」 「あいつめワシを置いてホントに行きおった。はてさて、ココで一句。 白タマネギの鼻に染み入る冬の夜は酒は静に飲むべきか ウムウム、答えて一句 一人酒落とすに落とせぬこのつらさ」 「はぁ、仕方ない、ワシも男じゃて。おい、ウォーレス。まてよ。 物騒な世の中じゃ、ワシが道中のボーディーガードしてやろうぞ」 「何、遠慮することはないて。ワシが付いてりゃ件の老人も、 恐れをなして寄ってくることもあるまいて」 「おまえさん、良い友達を持ったのぉ」 28,Feb,2001
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