ウォーレスの海の家

− 常夏の楽園に −



「んで、結局の所・・・」
「なんだ、じいさんか。どうしたんだ、いきなり。挨拶も無しで」
「そうじゃ。問題は挨拶なんじゃ」
「挨拶が無いのは、いつもの事か」
「なんじゃと、おまえさんはともかく、
このワシには然るべき挨拶があっても、いい筈なんじゃが」
「んっ、今度はおまえさんが、だんまりか」
「いいかい、自分だけで納得せずに、
少しはこっちにもわかるように話して貰わないとな、返事のしようがないよ」
「だから、挨拶の事じゃて」
「もう少しわかるように言ってくれないと」
「今、挨拶も無しにとか、のたまわっておったじゃろ」
「今のは、じいさん、あんたについて言った事だよ。
で、じいさんは誰に対してなんだ?」
 
「はて、ワシは何に対して、怒りをぶつけておったんじゃ」
「いいよ、思い出さなくても。
あんたがやり場のない憤りを感じているのは、いつものことさ。
今回は巻き込まれないだけ・・・」
「巻き込まれないじゃと、
おまえさんだって、もう首までドップリ浸かってる事じゃぞ」
「気にするなよ。すぐ次の憤りを見つけられるさ」
「なんじゃと、うっ、ううっ。どうやらワシはチト熱くなりすぎたようじゃの」
「自分でそんな事言うなんて。これは、珍しい」
「ワシはな、こう見えても理論家じゃでな。状況分析は怠らんのじゃ」
「理論家でなくて、理屈屋だろ。で、現状の分析結果は出たのかい」
「熱くなりすぎたんじゃから、冷やさんとマズイじゃろうて。
ってなワケで、ギンギンに冷えたヤツなんぞ良いかもしれんのう」
「結局は、そこに行き着くわけだ。ほらよ」
「おお、かたじけない。って。なんじゃ、こりゃ、氷嚢じゃないか」
「頭冷やしたいんだろ」
「まったく、困ったもんじゃのう。いいか、いい事教えてやろう。
人様の脳ミソはじゃな、外から冷やそうとしても
頭骸骨に阻まれて効き目が薄れるんじゃ。
効率よく冷やすにはじゃな、
内側から、則ち血液から冷やすのが一番なんじゃ。
だいたい、グラスに入れるべき物を、
そんな得体の知れない袋に押し込めるなんて、
それが酒場の主のする事かのぅ」
「そう言えば、怒ってる人間は長ゼリフになるって、誰か言ってたな」
 
「少しは落ち着いたようだな」
「それにしても、なんかこの酒ゴム臭いぞ」
「気のせいだよ、それに今時の氷嚢はゴムなんて使っちゃいないさ」
「さっきの氷を、使い回しした事は否定せんわけじゃな」
「冗談だよ」
「冗談じゃと。それは、さっきの氷を使ってないという意味なのか、
それとも、冗談でさっきの氷を入れてみたという意味なのかの」
「あんまり悩むとまた熱くなるよ」
「そしたら、また冷やすまでさ」
「ナルホドね、まっ、今日は使い掛けの氷が余ってるからね。
で、思い出したかい」
 
「おお、そうじゃった。おまえさん知っておったかの」
「何をだね」
「『ジャングル』だよ。ワシの知らん間に『ジャングル』が出来ておるんじゃ」
「ここは一応、常夏の楽園だからな、ジャングルがあっても不思議はないさ」
「だからじゃ、そのジャングルじゃなくて『ホーボージャングル』のことじゃ」
「おいおい、ジャングルがボーボーしてんのは当たり前だろ」
「ボーボーじゃなくて、ホーボーじゃて」
「ほぼジャングルか、じゃあ、まだ林ぐらいの大きさかい。
なら騒ぐまでもないだろ」
「んっ、そう言えば。そんな気もしてきたが」
「とにかく、自分の目で確かめてみたらどうなんだ」
「おっ、おまえさんたまには良い事言うのう。どれ、ここはひとつ・・・」
「ふぅ、今日の所は、何とかなったみたいだな・・・」
 
「おおっ、今、出てったばかりじゃないかどうしたんだ」
「いや、その。空身で行くのも気が引けての。
手土産に2,3本持っていきたいんじゃが。
モチロン、おまえさんの分も含めてじゃがの。
まさか、イヤとは言わんじゃろ」


14,May,2001


 

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