「なにを、イライラしてるんだ」 「今日の月ときたら、わしをつけ回しよってからに・・・」 「聞くだけバカだったか」 「信じられるか? 何処へ行くにもじゃぞ」 「その内に、飽きて何処かへ行くよ」 「なら良いんじゃが・・・」 「とっとと、忘れることだね」 「この年になるとな、忘れるにも、助けが必要になってくるんじゃて」 「そんなもんかね。それなら、頭のひとつも、殴ってやろうか」 「若いのぉ・・・ ワシが言ってるのはじゃな、直接的な物理的な・・・」 「そうならそうと、早く言ってくれれば、いいのに」 「それを察するのが、おまえさんの仕事じゃろうが」 「横の窓の隅を見てみるんだな」 「窓じゃと、オレンジの花しか見えんぞ」 「忘れ草だよ、その花をみると、何もかも忘れられるそうだよ」 「それにしても、今年は何かと慌ただしかったの」 「今年はって、まだ、四分の一も残ってるよ」 「思っても見なかった、移転騒ぎじゃて。 まぁ慌ただしくなるのも無理からぬことじゃったが・・・」 「あんたが、酔っぱらわなかったら、もっと、遥に、すんなりと・・・」 「まるで、わしが妨害工作でもしたような良い草じゃの」 「よりによって、引っ越し当日に、あんなに大酒を・・・」 「何を言ってるんじゃ。わしはの、おまえさんの荷物を少しでも、 少なく軽くしてやろうと、必死で、努力してだったんじゃぞ」 「おかげでこっちは、じいさんって言うお荷物まで、 背負い込まされるハメに」 「しかしなぁ〜。 あれだけ酒瓶貯め込んでどうしようって、いうんじゃ」 「あのねぇ・・・」 「実は、わしに、良い考えがあるんじゃが」 「遠慮しとくよ」 「まだ何も、言っておらんぞ」 「聞かなくても、想像が付くよ」 「ふん。欲のない奴じゃの。 大もうけの、機会をみすみす逃すとはの」 「どうせ、ろくなことじゃないだろ」 「まっ、とにかく聞いて見るもんじゃて」 「勝手にどうぞ」 「勝手にどうぞじゃと。 おまえさんは、客であるこのわしを、台所に・・・」 「だからその勝手じゃなくて、ご自由にって。。。 ああ。なんか、いつもの展開になってきたような気がするよ」 「なにワケの判らんことを、いっておるんじゃ」 「ワケを判らなくしてるのは、そっちだろ」 「さては、おまえさん、酔っぱらってるな」 「で、何をどうしたいんだ」 「おおっ、やっと聞く気になったか」 「で?」 「そうじゃったの。 引っ越しの時に、ふと思いついたんじゃがの。 じつはな、おまえさんが、ごっそりと貯め込んでいる酒瓶」 「酒瓶が何か」 「あれを、ココで売り出したらどうじゃ」 「ココで酒を売れって言うのか」 「どうじゃ、なかなかの妙案じゃろ」 「何を言ってるんだ、ココを何処だと・・・」 「ここか、まっ、教会には見えんがの」 「いいかい、ここは、ちゃんと営業許可も貰っている、りっぱな酒場だよ」 「ここが酒場じゃと、ふん、客のいない酒場なんて、あるもんかね」 「だれのせいで、こうなったか・・・」 「って、ことはじゃ。ここに来れば、酒が飲めると」 「いつも飲んでるだろ」 「そうか、せっかくの思いつきじゃったが、 そう言う仕組みになっていたとはの」 「たまには、精算してみるってのも、どうだい」 「そうか、そうじゃったか・・・」 「おいおい、大丈夫か」 「こいつぁ、いっぺん頭を冷やさんとな」 「それは、今日一番の名案だよ」 「ああっ、待てよ。出て行く前に、お勘定・・・」 30,Sep,2003
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