浄夜


 
ふぅ〜
もう、こんな時間だよ。
さて、そろそろ出掛けようか。
留守はあんたに任せたよ。
空の上から、見ていておくれ。
ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。
 
おやまっ、あんたは、
空の上じゃなくて、土の下だったっけ。
ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。
南無 なむ 、南無、南無っと。
 
 
じゃぁ、ちょっと、行ってくるかねっ。

 
 
 
 
 
有相無相が 窈深 ようしん なる時に還る頃
有為転変の崖 ほき に立ちて 無作 むさ を望む
 
時は目覚め
時は育ち
時は枯れ往く
 
静かで思慮深い闇が 冷たくこの身を浄め
饒舌で柔らかな無常の風が 冷めた心を洗う
 
時は目覚め
時は育ち
時は枯れ往く
 
刹那の冥想の果て
産霊 むすひ の主に頭 こうべ を垂れて
うつし 国に身を投げる
 
時は目覚め
時は育つ
 
そしていつしか時は満ち
そしていつしか時は告げ
そして時は去ってゆく
 
 
 
 
雨が降ったら
降ったで良しで
風が吹いたら
吹いたで良しで
陽射しに触れれば
僥倖で
星が落ちれば
もうお祭りさ
 
雨が降ったら
雨を浴び
風が吹いたら
風を浴び
陽射しに触れれば
陽を喰らい
星が落ちれば
宴の始まり
 
 
星が落ちれば
あめ から落ちれば
それは今日の始まりで
それは時の始まりで
それは宴の始まりで
それがあたしの始まりで
 
委ねたこの身を置き去った
時の後背 うしろせ 見えたなら
それがあたしの始まりで
それが宴の始まりで
それが時の始まりで
それで今が動き出す
 
 
あたしゃ 訪 とぶら
今日も 今日とて
赤き月読 つくよ み ひきつれて
壊れる夜を 漫 すず ろい歩 あり
 
無垢の空から毀 こぼ れて落ちる
壊れた夜を訪いて
夜を歌い 夜を踊る
 
背向 そがい にこほめく闇を負い
毀れた夜を 誘 そび き出し
夜を歌いて 夜を踊る
 
あはれこの世に毀れる夜を
あはれこの世に驟 うごつ く夜を
あはれこの世に崩れる夜を
あはれこの世で戯 そば える夜を
拾い集めて
送りて届ける
 
 
それは今日の直中 ただなか
それは時の直中で
それは宴の直中で
それがあたしの直中で
だから明日は逃げてゆく
 
鳴らせ楽 がく を雅 みや びかに
奏でよ楽を雅びかに
 
夜よ謳えやその来し方を
夜よ舞えやその行く末を
 
今は今日の直中で
今は時の直中で
今は宴の直中で
今があたしの直中で
今は明日も逃げてゆく
 
さあさあ夜よあたしと踊ろ
さあさあ夜よあたしと歌お
 
流れる時を楽として
漂う時を楽にして
 
 
あたしゃ歌いあたしゃ踊る
夜を歌い夜を踊る
 
あたしゃ歌いあたしゃ踊る
夜と歌い夜と踊る
 
さあさあ夜よあたしと踊ろ
さあさあ夜よあたしと歌お
飽くまで共に
在るまで友と
 
 
 
時は目覚め
時は育ち
時は枯れ往く
 
おまえを柵 しがら むものはない
今日はおまえを捨て去った
時はおまえを捨て去った
おまえは今や解き放たれる
 
お行きよ夜よ
望む所へ
お行きよ夜よ
在るべき所へ
 
 
時は目覚め
時は育ち
時は枯れ往く
 
お行きよ夜よ
おまえの務めは終わりだよ
お行きよ夜よ
静かに秘かに休むがいいさ
 
お行きよ夜よ
お行きよ夜よ
 
 
時は目覚め
時は育ち
時は枯れ往く
 
お行きよ夜よ
ありがとう
 
 
 
 
今日も今日とて
今日も今日とて
壊れる夜を漫ろい歩く
 
夜を迎え
夜を過ごし
夜に生まれて
夜を送る
 
あたしゃ夜の泣き女
 
 
無垢の空から毀れて落ちる
壊れた夜を訪ぶらいて
夜を歌い 夜を踊る
 
あたしゃ夜の泣き女
あたしゃ夜への泣き女
 
 
 
 
 
 
おやまぁ〜
まだ、こんな所でくすぶって。
んとに、長っ尻 ちり だねぇ。
まったく、誰に似たのやら・・・
 
さあ、さあ。
さあ、さあ。
あたしゃ、だめだよ。
くたくたさ。。。
 
さあ、さあ、早くお行きよ。
もう、ここには、あんたらの居場所はないんだよ。
おっつけ、おてんとさんが顔を出しゃ。
あんたらみんな・・・
 
さっ、さっ。
お行きよ、子供たちよ。
明日の、夜のためにもさ。
場所を空けておくれでないかい。
あたしゃ、聞き分けのない子は嫌いだよ。
さあ、さあ。
さあ、さあ。
 
 
 
 
 
 
今、帰ったよ。
ふぅ〜
もう、こんな時間だよ。
いつも留守番、ありがとさん。
南無、南無、南無っと。



 
 
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風鏡譚 −ふうきょうたん−
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