気疎い空に


 
何処 いずこ より
迷い来たか
シャボンの小玉
三つ四つ
夕日の赤きに背を向けて
小さきその身に虹浮かべ
西へと急ぐ満月へ
 
   
 
遠い世界か
見知らぬ世界か
遠き異界か
届かぬ異界か
 
 
   
空から落ちたこの体
再び空へと戻るまで
どんなに急いで
駆け抜けようが
どんなに暖 ゆる りと
揺蕩 たゆと うが
空より落ちたこの命
再び空へと戻るまで
 
何処より
迷い来たか
シャボンの小玉
二つ三つ
水面 みなも の青きに腹向けて
小さきその身に虹映し
色を捨てたる大空へ
 
   
 
遠い世界へ
見知らぬ世界へ
時に付き
時を越し
遠き異界へ
届かぬ異界へ
 
 
   
哀れな者よ
かそけ き者よ
この姿は見えても
この声は届かぬか
愚かな者よ
届かぬ者よ
この姿は目に留まっても
時の流れは目に入らぬか
 
 
決して時に追い付けぬ
決して時を追い越せぬ
決して時には追い付けぬ
決して時は追い越せぬ
 
 
何処へと
迷い出ずる
シャボンの小玉
また一つ
すべての光の失せた中
小さきその身に何を負い
小さきその身で何を追う
 
   
 
遠い世界に
見知らぬ世界に
時に付き
時を越し
遠き異界に
届かぬ異界に
 
 
   
哀れな者へ
幽き者へ
空から落ちたこの命
再び空へと戻るまで
愚かな者へ
届かぬ者へ
さすれば時が満ちたれば
笑って閉じるが世の常ぞ
 
何処へと
やがて失せる
シャボンの小玉
ただ一つ
すべての光の失せた中
小さきその身が輝いて
小さきその身が闇に消え
 
   
 
遠い世界へ
見知らぬ世界へ
時に付き
時を越し
遠き異界へ
届かぬ異界へ
明日へと
昨日へと
 
 
   
たとえ時は来なくても
笑って過ごさんこの時を
いずれ夢で逢えること
切に願いて
ひとまずこれは
現世の夢のことは
さて忘れ
夢のまにまに戻ろうぞ
 
 
時は満ち
時は欠け
異所 ことどころ が呼んでいる
 
空は満ち
空は欠け
異時 こととき を呼んでいる
 
 
 
遠い世界で
見知らぬ世界で
時に付き
時を越し
遠き異界で
届かぬ異界で
 
 
 
明日で
昨日で
 
気疎 けうと い空で
 
 
気疎 けうと い空で
 

 

 
 
 
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垂拱譚 −すいきょうたん−
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