彼方へ、そして・・・ 
断続寓(愚)話 『 彼方へ、そして・・・ 』 その十四


 

   その十四 何せむ非在は何もせぬ
 
 
 
 果てのちょっと外側で、はてと戸惑う者がいる。
 すべての少し外側で、術 すべ をなくした者がいる。
 果て無き世界の果ての果て、自分を忘れた者がいる。
 
 そういう時の常として。
 そういう者の定として。
 忘れし者は、閑歩 かんぽ する。
 虚ろな心を負うたまま。
 旅の伴侶は煩慮 はんりょ のみ。
 
 
 万慮 ばんりょ の万失、策尽きて。
 ただただ歩く、姿はまさに忘れし者ぞ。
 そして今、忘れし者はつまずいた。
 そもそも何も無い所で。
 これは妙だとよく見るに。
 そこだけなぜかぽっかりと。
 ものの見事に何も無い。
 どこぞの誰ぞが言ったよに。
 存在が、無意味の最たる象徴ならば。
 これぞまさしく、意味の本質。
 非在 ひざい こそが、求める物か。
 
 忘れし者は、のぞき込む。
 当然、非在は答えない。
 何せむ非在は何もせぬ。
 忘れし者は、手を伸ばす。
 非在は瞬時に消え失せた。
 そこにあるのは、無の空間。
 後に残るは、ただの空隙 くうげぎ
 ただの存在。
 
 しかし、忘れし者は気付かなかった。
 まさに非在に、触れんとしたとき。
 負うた荷、何かが飛び出して非在めがけてまっしぐら。
 はたまた、非在が荷に移ったか。
 両者に疎通があったこと。
 忘れし者は気付かなかい。
 
 気付かぬ者は手元を見つめ、嘆息 たんそく す。
 そを指せば指を認むとは、この事か。
 ひとりごちたが詮方ない。
 だがなぜか、その時心はやや軽く。
 つられて足取りやや軽く。
 不憫にも気付かぬ者は気付かない。
 
 
 そしてまた、周りを見ればここかしこ。
 非在がなぜか点々と。
 気付かぬ者は繰り返す。
 非在に近づき手も伸ばす。
 非在はよすがか依り代 よりしろ か、
 気付かぬ者は繰り返す。
 
 
 いつまでも、同じ事の繰り返し。
 いつやら負うた荷空っぽに。
 心はますます晴れやかに。
 そして非在は消え失せた。
 だがなおも、気付かぬ者は気付かない。
 気付かぬ者はただ歩む。
 もう無き非在を求めつつ。
 旅の伴侶もすでになく。
 

                                            
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